WordCamp Kansai 2015。貢献というテーマ、セッションvsハンズオン、スポンサーとGPL、Campの目的について

WordCamp Kansai 2015 へ行ってまいりました。また、スタッフとしても関わらせていただきました。

以下の小見出しで、感想を書いてみたいと思います。

  1. 貢献というテーマ
  2. 西川の担当
  3. セッション vs. ハンズオン
  4. スポンサーとGPLについて
  5. なんのためのWordCampなのか

貢献というテーマ

今回のテーマは “Get Involved 進化を続ける未来に出会おう” でした。

巻き込まれよう、参加しよう、その先に今までと違う何かがあると思うよ!という運営側からのラブコールですね。使う側から、作る側へ回ってみる楽しさ、そのことから得られる学びと信頼、そんなようなことを伝えたいという考えから決まったテーマなのだと思います。

WordPress › 日本語 « WordPress への参加・貢献

上記のリンクは、WordPress日本語のサイトに新しく追加された、スラッグも /get-involved となっているページで、日本語での参加方法のリストです。WordPressの本体の開発に参加することのみならず、参加の方法には、翻訳、ドキュメント、サポート、イベント開催、テーマやプラグインの共有という方法もあり、開発者からデザイナー、一般のユーザーであってもいろいろな選択肢があります。

私は、WordPress というソフトウェアにもそれを取り巻く人々にもたくさん助けられて私の今があると思っていますので、少しずつでも何かお返しをしつつ次に繋がる何かが得られたらということで、現在暮らしているバンコクでのMeetupの開催や、テーマをレビューするチームへの所属などをしています。

今回のキャンプで、このテーマを反映しているコンテンツには以下のものがありました。

貢献、というと堅苦しく感じられて無料で人のために善意のみを動機として行なうものというニュアンスを感じられる方もいるかも。でも、実際にはそうではなく、こうした活動を通して、

  • 翻訳やコードを書いたりテーマをレビューしている間に知識が深まる
  • WordPress の開発に近い立場にいることから最新の状況がつかめるようになる
  • 協働する人たちとのコミュニケーションによって仲間が増えたりその会話から深い場所にたどり着ける
  • 貢献者としての実績から、信頼を得ることができる
  • そもそも自分のコードをオープンソースにすると得るものがある

といったメリットを享受していることが浮き彫りになる話が多かったです。

今回のWordCamp関西2015は、そういう考えが自然に共有されたメンバーたちによるWordCampだったんじゃないかな、と思いました。最高です。

次の引用は、参加者の方が受け取った印象なのですが、これはとても嬉しいです。

(引用者註: 2014のWordCamp Kansaiでは、)WordPressの技術やデザイン以前に,その「理念」が高らかに宣言され,イベント全体に一つの芯が通ったものとなったと思います。
そして,今回のWordCamp Kansai 2015も,昨年の流れを受けて,セッション企画はWordPressの理念をより深く考えるものが多く配置されたのかなと勝手に考えています。

WordCamp Kansai 2015から何をつかむべきか | 司法書士松宮法務事務所

余談ですが、いろいろな人から影響を受けた私の今の考え方としては、WordPressに貢献すること・参加することは、「WordPress 全体と、自分自身の成長を望む人たちが、その目的のために、ともにコミットする共犯関係」というものです。

慈善活動だけではないし、差し出すだけでもない。WordPressも流行ってもらって育ってもらわないと困る。自分のスキルもあげたい。自分の利益と合致した部分について行動すればいい。利益に受け取って構わない。というかどんどん利益を生むといい。そして、その活動に加わる人が増えたほうが自分のコミットメントの寿命も伸びる。それがコミュニティのリアルな強さになっているのではないかなぁ、と思います。

西川の担当

私が担当したのは、主に以下の3つでした。

  1. セッションのタイムテーブルの土台作りを手伝った
  2. セッションをひとつ担当した
  3. 海外ゲストのセッションの翻訳と送迎や観光案内をした

1. セッションチームとタイムテーブルのこと

まず、一時瞬発力を出すことを頑張った自負はあるものの、その後の丁寧な連絡調整などについては粘り強さを発揮しない私の弱点が露呈してしまいまして、チームというのはいいものだと思うと同時に感謝の気持ちでございます。

今回のコンセプトを体現するために、以下のことが念頭に置かれていました。

  • 委員会側発案のセッションと公募のセッションを組み合わせる
  • 貢献者に登壇してもらう
  • ハンズオンをたくさん入れて、初心者や貢献者の今後に繋げる
  • 海外からのゲストに来てもらい、刺激を入れる
  • コントリビューターのための部屋を作り、なにか面白いことが起こる場を作る

タイムテーブル | WordCamp Kansai 2015

2. セッションを担当!

私は、WordCampでひとりで話すのは初めてで、機会をいただいてありがたかったです。緊張しましたw

内容は、

再利用可能性とメンテナンス性が高い WordPress サイトを、安全に、短時間で、チームで作るためのベスト・プラクティスを学び、日々のテーマ制作の方法を改善すること。

というゴールを設定し、そのゴールに至るためのベスト・プラクティスを、WordPress の公式テーマレポジトリの要件から学び取るというものでした。

そのベスト・プラクティスとは、

  1. 見た目に徹する
  2. どんなプラグインとも機能するための作法を知る
  3. WordPress の機能をフル活用
  4. コンテンツに触らない

というものでした。かなり抽象的なので詳細はスライドと後日公開されるビデオを見てもらいたいですが、これはなかなか正しく、深い話だと自負しています。

もうひとつ、セッションのスライドを作っていた中で気がついたのは、以下のことです。セッション用のメモから引用します。

WordPress の理念は、「パブリッシングの民主化」です。誰もが自分の思ったことを発信でき、誰にも制限されない、そのためのプラットフォームになることです。

ユーザーは、自分の好きなデザインを自由に選ぶことができます。必要な機能は、どのようなデザインを選んでいたとしても、できるだけ自由に取り入れられる工夫があります。ユーザーはコンテンツをデザインにとらわれずに持ち運ぶことができます。WordPress の理念であるパブリッシングの民主化を実現しようとすると、テーマからも機能からもWordPress からも、ユーザーとユーザーのコンテンツは自由でなくてはいけないのです。

公式レポジトリの掲載要件も、パブリッシングの民主化をテーマで表現するとこうなるよ、ということになっていることが分かります。自然、この要件に従うことが、WordPress の力を最も発揮できる形に近づくことになっているのです。

なるほどですね。

3. 海外ゲスト

日本のWordCamp、海外からのゲストを迎えるのが恒例になってきており、実行委員会の仕事にも、もうひとつの分野が生まれています。

  • 誰に来てもらうのがよいのかを考えること
  • ホテルや移動手段について事前に調べて伝えること
  • 翻訳するため、セッションの内容をできるだけ詳しく送ってもらうこと
  • 来日時、帰国時の送迎(必要な範囲で)をすること
  • 事前・事後で観光案内や懇親を深めるために動くこと
  • セッションを翻訳し、参加者にできるだけ伝わるように頑張ること

などがその内容です。

担当するのは大変な一方、ものすごく仲良くなれて、期間中に深い話もたくさん生まれ、だんだんと信頼関係が強くなっていくのを感じ、別れるときには「また会いましょう、世界のどこかで!」と言えるのはとても幸せなことだと思います。

ありがとうございました。

セッションとハンズオン

今回、ハンズオンがすごく充実していました。ハンズオンとは、体験学習のことです。

なぜ、体験学習を充実させたのか。それは、セッションへの限界を超えたいと思ったからです。丁寧に伝えたい、本当に持って帰ってもらいたい、仲間を増やしたいという気もちからするとハンズオンが増えます。

スライドがあって生身の人間が喋るセッションを聞くというのも、本当に素晴らしいことですし、僕も影響を受けたセッションが今までにたくさんあります。でも、セッションという形態には、向いているコンテンツと、向かないコンテンツが有るのではないでしょうか。

セッションでは、聞いただけじゃ動けない、動きたくても動けない、ということがあります。それは「○○のやり方」系のコンテンツの場合に顕著です。何ページものスライドを見て帰っても、本当にそれを真似して、自分のものにできる人は少ない。

WordCamp の運営をやると、そのコンテンツがどのくらいの影響を与えることができたのかを感じ取ることができます。その感覚が実際と合っているかどうかは、本当には分からないのですが、やっぱり感じます。数年にわたって何度もやっていると毎回同じようなことを感じます。

じゃあ逆に、セッションに向いているコンテンツってどんなものなんでしょうか。それは、経験をシェアするものだったり、考えを伝えるようなもの、概念・思想などに迫っていくものです。

この登壇者がこんなことを考えながらやってるんだったら自分もできるかもしれない。CMSのそんな捉え方があったのか。世の中にはこんなに貢献活動をしていてそれをビジネスにも結び付けてる会社があるなんて目からうろこ。問題の発見からその解決までそういう風に考えてWordPressのこともそんなに信じて作りきって利益を出せるとは。

というようなことですね。何かのやり方を示すことではなく、誰かの経験や実績や考え方を登壇者がババーンと発することで、誰かの行動に影響がある形。

ハウツー、ノウハウ系はセッションだと伝えるのが難しい

そう考えると、

  • 「デザイナーのみなさん、_sや子テーマをやってみよう」
  • 「英語が読めるなら、翻訳を実践してみよう」
  • 「Codexを整備すると勉強になるんだよ」
  • 「ユニットテストを導入しましょう、継続的インテグレーションを取り入れよう」
  • 「WordPress.com っていいんですよ」
  • 「WordPressとテーマとプラグインだけで、ここまでできますよ」

と、壇上から伝えたとして、人の行動に本当に影響をあたえることって、実は難しいんですよね。

さて、受け取る方だって、やる気があるから会場に来てくれています。

伝える側は本当に伝えたくてやってみてほしくて仲間になってほしくて、一方の受け取る側もやる気があって上達したくて何かを持ち帰りたくて会場に来ていて、それでもセッションでやり方を伝えても、持って帰ってもらうというのは難しいんですね。

セッションの会場で300人の人が聞いて、そのうち本当に行動が変わる人数と、ハンズオンの会場に30人しか入れなくて、でもその全員が始められて、その中から続けられる人が出てくるという数、後者のほうが多いんじゃないでしょうか。

ハンズオンの準備って、実際に手を動かすというすごくリアルなことなので、準備にすごく時間がかかります。当日も、セッションなら一人が数十分話すと終わるのに比べて、ハンズオンだと複数人が2時間位。

そうであったとしても、伝わる質と量のことを考えると、ハンズオンを選択をすることは頑張れるなら頑張りたい。今回のCamp関西チームは人数が少なくても、それを可能にするチームでした。

上記で挙げた、_s, 子テーマ、翻訳、Codex、ユニットテスト、.com実践、テーマとプラグインでサイト構築というコンテンツは全部ハンズオンで実現されました。
詳しい人が、まだそれをやったことのない人と一緒に、パソコンを目の前にして伝えた、というのはすごい事実でした。

次回は、実行委員じゃない人たちにも、もっとハンズオンの担当になってもらうといいかもしれません(スタッフ的熱量がないと準備へのコミットメントが発生しない問題を解決しないとですね)。

スポンサーとGPLについて

今回、印象的だったのは、スポンサーさんたちがとても良い形でWordPressのコミュニティと関わってくれているということでした。1日中バタバタしており、すべてのスポンサーさんたちのブースを回ることができず、また、スポンサーブースが設置されている場所で行われていたトークもすべてを聞くことができなかったのですが、ユーザー側・主催側・貢献者側からのフィードバックをすることも、健全さに寄与すると思い、感想を書きたいと思います。

さくらインターネットのスライドの中で、WordPressコミュニティに関わる方法・可能性の模索ということが書かれていました。これまでのスポンサーシップを含めてどのような関わりを持って来られたのかということが語られ、他の関わり方も模索されていると。私からは海外の事例として、貢献者を採用して、その社員の時間の半分(あるいは100%)をコアへの貢献やサポートフォーラムでの活動、REST APIの開発、イベントの開催に使わせるという超ダイレクトなやり方があることを伝えてみました。ホスティング会社の存在は超重要なので、採用とかじゃなくても、もっといろいろな関わり方ができるようになるといいなと思いました。

もうひとつ、ファーストサーバの社長さんのセッションでビックリしたのは、テンプレートキングというウェブサイトのデザイン・テンプレートの無料配布サイトがあるのですが、ここで配布されているテーマが100% GPLだそうです。俄然応援モードになりました。もっと言っていけばいいのに、とも思いましたし、コミュニティはそれをもっと宣伝したりできればいいなと思います。WordPressの公式テーマレポジトリへの登録もお待ちしています!有料のテーマ販売もご検討いただいて、儲けてください!ホスティングしている人はダウンロードし放題とかどうでしょうかw!

さて、 GPL でないライセンスを選択している企業は WordCamp、WordBench、WordBenchを母体にするイベントに参加できないというルールがあります。

前回の記事(有料で販売されているテーマとプラグインの「1サイトでのみ使えます」表記の話から、開発者&ユーザコミュニティがあるWordPressでビジネスするってどうすればいいのかな、ということを考えた話のメモ)でも書いたのをもう一度ここにコピペしたいと思います。

100% GPL というのは、

  • まずはユーザーが使いやすいというのを追求するとそうなる

というところから始まっていて、本来はphp部分のみGPLにすればライセンスに違反しないところを、ユーザーの利便性を考えて、また、WordPress.org の考え方に賛同しているところじゃないと採用しないものだと思います。利用規約を定めるときに、社内のリソースで作ったものを無料で配布しつつ再配布・再販を許容するというのは、企業の中で理解を得るのはすごく難しいんじゃないかなと思うわけです。それを押し進めるということが、あの時にブースにいたメンバーや社長さんによって行われたというのは大きなことだと思います。

なので、コミュニティ側としてはそういう文化を持ち込んでくれた人たちのことは大事にして応援して、たとえば他のホスティング会社よりも目立ったり儲かったりするようにしていくという共犯関係が築ければいいと個人的に主張したいです。

GPLじゃない人たちを排除するのではなくて、GPLな人たちがGPLにするといいことがあるなぁ、お得だなぁ、損がないなぁと思うような、強いコミュニティになれるといいですね。

100% GPL で配布・販売されているテーマが見つかる日本のウェブサイト

なんのためのWordCampなのか

WordPress を使う人を増やす、WordPress 周辺のビジネスが潤うように頑張る、WordPress のノウハウをシェアする、WordPress の理念を伝える、WordPressの貢献者を増やす。

いろいろな目的があって、ひとつのCampの中で複数の目標があります。主催者としては何を選ぶのか。たとえば僕が、バンコクでWordCampを開催するとしたら、ユーザーを増やす、知識をシェアすることの楽しさを共有する、同じソフトウェアを使っている人たちが繋がる機会を作る、地域コミュニティとしての強さに繋がる運営を目指す、というのがゴールになりそうです。

https://japan.wordcamp.org によれば、今回のWordCamp Kansai 2015は日本国内で通算17回目の WordCamp のようです。国内での初めてのWordCampが開催されてから8年が経過しています。その間に、ユーザーの意識も情報量も層の厚さも変わってきました。

本屋さんに行くと本当にたくさんの WordPress 関連書籍が並んでいて、ブログの記事も充実しており、オンラインで受講できる講座もたくさんあります。学ぼうとする人にとって十分といえる量の情報と機会があります。

そうした環境にある現在の日本で、WordCamp が果たす一番の役割はどんなものなのか。難しい問いだと思うのですが、今回の運営チームの答えは、 “Get Involved 進化を続ける未来に出会おう” で、僕の感想は、デザインもコンテンツもチームの意識も、スポンサーの様子も、そして来場者に伝わったものの中心にあったものも、今回のテーマ・コンセプトを実現しており、素晴らしかったなと思います。

楽しい WordCamp で、はるばるやって来てよかったな、と思いました。スタッフの皆さん、スポンサーのみなさん、来場者のみなさん、ありがとうございました。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!

著者について

コメント

コメントする

目次
閉じる