有料で販売されているテーマとプラグインの「1サイトでのみ使えます」表記の話から、開発者&ユーザコミュニティがあるWordPressでビジネスするってどうすればいいのかな、ということを考えた話のメモ

全然未完成でもっといろいろあるんだけど、取り急ぎのメモです。

(保険:間違ってたらごめんなさい。あと、GPLそのものの話よりも、それがWordPressでどのように運用(?)されて生かされてどういうビジネスがあって、みたいな話がこのポストの趣旨なのでいじめないでください。間違っているところはツイッターでもこのブログのコメントでも、ご指摘大歓迎です。)

きっかけは以下のものでした。

WordPress の管理画面にログインすると、左上にWordPress のロゴがあります。「 WordPress について」というところへ進み、「自由について」というタブをクリックすると、この件に関する基本的な WordPress のライセンスとスタンスを読むことができます。

「WordPress の自由について」はすべてのWordPressサイトの管理画面に入っている。

「WordPress の自由について」はすべてのWordPressサイトの管理画面に入っている。

そのまま引用しますと以下のことが書かれています。

WordPress はフリーかつオープンソースのソフトウェアで、世界中のボランティアの開発者たちの分散型コミュニティによってつくられています。WordPress はそのライセンス、つまり GPL のおかげですばらしい、世界観が変わるような権利を備えています。

  1. ユーザーは、目的を問わず、プログラムを実行する自由を有します。
  2. ユーザーは、ソースコードを入手可能であり、プログラムがどのように動作しているか研究し、そのプログラムに必要に応じて修正を加え、採り入れる自由を有します。
  3. ユーザーは、身近な人を助けられるよう、コピーを再頒布する自由を有します。
  4. ユーザーは、プログラムを改良し、コミュニティ全体がその恩恵を受けられるよう改良点を公衆に発表する自由を有します。

WordPress はあなたのような人たちが友人に WordPress のことを語るにつれて成長します 。WordPress 上やその周りで構築されている何千という事業やサービスがそのユーザとともにその事実を共有します。誰かが WordPress という言葉を広げるたびに私たちはうれしく思います。まずはじめに必ず商標のガイドラインをよく確認してください。

WordPress.org のディレクトリで提供されるすべてのプラグインとテーマは 100% GPL ライセンスであるか、あるいは同様のフリーで互換性のあるライセンスとなっているので、そこで安心してプラグインとテーマを探すことができます。別のところからプラグインやテーマを手に入れるなら、まず GPL であるかどうかを確認してください。もしそうしたプラグインやテーマが WordPress のライセンスを尊重していないものであるなら、お勧めしません。

とあります。

@kurudrive さんがツイートしているのは、一度配布を受けたら、何に使っても、何回使っても、それを誰にあげてもいいはずなのに、「1ドメインだけ」とか「1サイトだけ」とかって書かれているのは、GPL に違反するという趣旨だと思います。

GPL とは、フリーソフトウェア財団というところが作ったもので、GNU General Public License の頭文字をとったものです。くわしくは、WordPress を使うなら知っておきたい GPL ライセンスの知識【基本編】 | WP-Dを読んでもらうとよいです。

WordPress に関わるところ、今回の趣旨に関わるところをおさえるには、以下が大事だと思います。

  • GPL で受け取ったプログラムを使って、なんのために、何をしてもよいし、ソースを研究したり改変して使用してもよいし、人にあげたり、広く一般に向けて配布してもよい。

という自由の部分と、

  • ただし、人に渡す時(再配布する時)、自分が受け取った自由を、次の人にも必ず渡してあげないとダメ

という「コピーレフト」という大発明部分です。この2個めの他の人にも自分と同じ自由を保証するというところが肝で、これがあるからずっと自由が保証され続けるという素晴らしい仕組みだと思います。

次は、よくある誤解についてです。GPLでは、以下のようになっています。

  • GPL 下で受け取ったものをベースに開発したとしても、配布しない限り、ソースを公開しなくたっていい(公開しなきゃいけないという誤解がある)
  • GPL で配布する場合、お金を受け取ってもいい(無料じゃなきゃいけないという誤解がある)

ポイントとして、「GPL の効力が発動するのは配布する時」である、というのが大事です。受け取った人はひたすら自由なだけなんです。何してもいい。ただし、次の人に渡す時にはGPL(かその互換ライセンス)で配布していこうということです。配布しないなら何も考えなくてもOKです。エンジニアじゃないならGPL知らなくても問題起きません。なので、ライセンス怖いとかそういう声が時々聞かれるのですが、ライセンスはユーザーを守ってくれているものなので、本当は怖がる必要なんて全然ないはずなんですよね。

次のお金周りのところ。配布には販売も含まれます。これ、ソースコードをzipで固めてemailで送信する手数料とか、販売用のウェブサイトを設置した手数料とか、そういう理解でいいんじゃないかと思っております。

GPLで配布(販売して渡す)するわけなので、購入した人はそれを無料で配ってもいいし、1万円で買ったものを3万円で売りさばいてもいいわけですね。ここが、販売する人たちが「1サイトだけ」とか「1ドメインだけ」とかの制限をかけることになる理由です(そして、それはGPLに違反しています)。

さて、ちょっとややこしいのですが、以下のツイート。ここからは、GPL 一般を離れて、WordPressとそのコミュニティ内のルールの話になります。つまり、WordPress じゃないソフトウェアでは関係がない話になります。分けて理解しておくのは大事です。

100% GPL というのはなんのことかと言いますと、JavascriptやCSSや画像やフォントなどの、PHPではないものに対してもGPLで配布することです。

WordPress のテーマは大抵の場合、

  • PHP
  • Javascript
  • CSS
  • 画像
  • フォント
  • その他のドキュメント

などなどでできています。本来、これらのファイルをすべて自分で書いた(写真なら撮影した/フォントなら描いた)として、この内、GPLが自動的に適用されるのはPHPだけです。

これはなぜなのかといいますと、テーマは WordPress がないと動かないから、テーマはWordPressの派生物であり、従ってGPLの特徴を全部継承(?)するという説明がされています。アメリカでも日本でも実際には裁判になったことはなく、判例などはありませんし、すごくざっくりした言い方なので、ちょっと怖いですが、基本的にはこういう説明でWordPressのコミュニティの大部分が理解しています。

具体的に言いますと、テンプレートタグやその他のWordPress内のAPIを利用しているから、テーマは(プラグインも)WordPressとリンクしていて別のソフトウェアとは言えないのですよ、ということです。

ということは、Javascript、CSS、画像、フォントなどについては、WordPressがなくても動くもので、WordPress に依存したプログラムではないので、GPLで配布する必要はないということでもあります。

その上で、Javascript他のリソースについてもまとめてGPLにして配布しようというのが100%GPLという概念で、多分、WordPressのコミュニティでしか使われていないと思います。

ここで、ソースコードを離れて人間っぽくなってくるのですが、100%GPL であることで配布する人は以下のメリットを享受することができます。

  • WordPress.org の公式のテーマレポジトリやプラグインレポジトリに登録できる
  • WordCamp などのイベントに登壇できる
    • 登壇だけでなく、スタッフとして参加したりスポンサーになったりといったことが全部できるようになる
  • その流れの中で、自分のテーマやプラグインがコミュニティ全体に指示・応援されてマーケティングに役に立つ

GPLであるだけでも、ソースが公開されていることでオープンソースのメリットを受けられるわけですが、100%GPLにすると、それに加えて上記の人間側のメリットも得られるようにしようじゃないか、ということですね。

自分のサイトや WordPress.org 以外のマーケットプレイスなどでテーマやプラグインを販売する場合、GPLにしないと違反になりますが、別に100%GPLにする必要はありません。再配布や販売をする人たちに対して「100%じゃないなんて違反だ!」という権利は誰にもありませんし、WordPressも言ってません。

さて、以下は英語圏のWordPress商売の様子を見ていて考えたことになります。

GPL であること、ソースが公開されていることでプロプライエタリなソフトウェアを販売するのとは違うメリットや商売の方法があるということですね。

ソフトウェアを売るというよりも、

  • サポートを売る(英語圏の商売でサポートが重視されているっぷりは驚くほどです)
  • フォーラムなどのクローズドなコンテンツへのアクセス権を売る
  • アップデートへのアクセス権を売る

といった形です。

APIキーによるサービス側のサーバに寄る認証がないと動かないパターンは、GPLに違反してないけど趣旨からするとちょっと「微妙」かもしれません。が、やれないことはないですね。

プラグインがインストールされているWordPressが、プラグイン販売者が提供するサービスの利用クライアントになるという形はスマートですね。

WP Booster、Akismet、VaultPress、Sucuriなどなど。

プラグイン自体は 100%GPL で配布しつつ、実際の価値自体はユーザーのWordPressではなく、事業者のサーバーで実現されるかたちです。たとえば、Sucuri という会社のセキュリティのためのプラグインは、大きく分けて以下の2つの機能を有しています。

  1. ユーザーのWordPressの内部で動作して、セキュリティに関するチェックや対処を行う。
  2. Sucuriのサーバーと通信をして、高い安全性を保証する。

ここで、2の機能では、プラグインはWordPressとサーバーとの通信をするだけです。その上で、Sucuriのサーバーに蓄積された膨大なデータと照らし合わせて何かを判断したり、通信自体を”サイトの読者”->”Sucuriのサーバー(ここで怪しいアクセスをブロック)”->WordPress という風に制限したりします。

コアの部分は無料だけど、アドオンやエクステンションと呼ばれるプラグインの拡張プラグインは有料というのもあります。フリーミアム。

WooCommerceなどは、これでたくさんのお金を稼いでいます。この例はいっぱいあります。

また、コアの部分は無料でその拡張は有料という形の場合、コアの部分は、100%GPLであれば、WordPress.orgのテーマ/プラグインレポジトリに置いておいて、無料ユーザをたくさん集めるということも可能です。

シンプルだけど、今からやっても全然遅くないオーソドックスなスタイルだと思います。

次の例は、有料のプラグイン自体が実はGithubにおいてあって誰でもダウンロード・インストールして使える例です。

AffiliateWPのGithubレポジトリのreadmeには以下のことが書かれています。

AffiliateWP is a commercial plugin available from http://affiliatewp.com. The plugin is hosted here on a public Github repository in order to better faciliate community contributions from developers and users alike. If you have a suggestion, a bug report, or a patch for an issue, feel free to submit it here. We do ask, however, that if you are using the plugin on a live site that you please purchase a valid license from the website. We cannot provide support to anyone that does not hold a valid license key.

AffiliateWP は http://affiliatewp.com で入手可能な商用プラグインです。このプラグインはこのGithubの公開レポジトリにホストされており、その目的は、コミュニティからの貢献を、開発者やユーザーから受け取りやすくすることです。もし、提案やバグレポート、イシューにたいするパッチがあるのであれば、どうぞここに提供してください。ただし、もし公開サイトでこのプラグインを使うのであれば、ウェブサイトでライセンスを購入してください。有効なライセンスキーを持たない方には、なんのサポートも提供されません。

というわけで、オープンソースのメリットである、

  • みんなが試せる
  • 提案やバグレポートが集まる
  • パッチやプルリクが受け取れる

というメリットのほうが、彼らにとっては購入されないまま使われるというデメリットよりも大きいということですね。

また、AffiliateWPには数多くのアドオンがあり、その開発者はコア部分の開発者だけに限らず、他の人たちも参加しています。参加している人たちはAffiliateWPのウェブサイト上でそれらのアドオンを販売し、コア開発者と利益を分けあっています。

2014年の売上は1億円!

この1億円なんですけど、これがもし閉じられた場所で作られたソースが公開されていないプラグインだったら実現しなかったんじゃないだろうかと思うのですよね。

上記が、僕が日本もこうなったら素敵だけどまだ難しいのかなぁ、とこういう話になるといつも思っている結論的なところです。

GPL、100%GPL について、イベントへの出入りを禁止する排除のためのものだ、みたいな雰囲気になっているのを見ると、いや、そういうネガティブな感じではなく、ポジティブな流れを作るためのうまいこといきそうな仕組みなんだから、みんなでそういうプラスの共犯関係を作っていければいいのにな、と思っております。

その他

ThemeForestのライセンスの表記がおかしい話がWordPressのSlackチャンネルで上がってました。

最近のニュースで、Thesisというテーマがあるんですが、この作者が「いや、Thesisはテーマなくたって動くし!独立なのでプロプライエタリでいきます。それにThesis目当てでWordPressに入ってくる人たちがめっちゃいっぱいいるんだから、関係ないし。」というようなことを言っており、最近、Thesis.com というドメインをAutomattic が入札で落としてしまっていや、Thesisという商標を持ってるのはうちなんだから Automattic だめじゃんという訴えをThesis側が起こしたけれども負ける、という流れがありました。

Mullenweg and Pearson Square Off on Patents, GPL, and Trademarks

このニュース、なんでFoundationじゃなくてAutomatticがすごいやり方で戦いの全面に出てきちゃうの?とか、以下の動画ではマットとThesisオーナーが喧嘩別れしてたりとか、いろいろと難しいです。

では最後に、GPL、あるいはFLOSSについて、『WP で作るえっちサイト』という非常に分かりやすくその理念を表現しているゆりこさんのスライドを紹介して終わりたいと思います。

ありがとうございました。

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • 初めまして。
    奥池と申します。
    大変勉強になる記事を読ませていただきました。
    そこで解釈があっているのか自信がないので1つだけ質問させてください。
    例えば、有料、無料に限らずあるテーマを使い、色々カスタマイズしたとします。
    そこでカスタマイズしたコード(CSSやhtmlやphpなどもろもろ)をコンテンツ化して販売する場合、テーマの販売者に許可を取らなくても良いという解釈で合っているでしょうか?
    法律的にはOKだけど、道徳的には一言言っておいた方が良いといったイメージでしょうか。

  • 100%GPLで、かつ商標の問題をクリアできるなら、販売しても構わないです。

    CSSが、GPLではないライセンスになっていたら、そのライセンスに従ってください。

    テーマの名前やロゴなど、商標に関わりそうなものは取り外さないとだめです。コードの再利用は認められますが、商標は別だからです。

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