前置き
本題
先月に引き続き、バンコクでWordPressのMeet-upがありました。
今回は、Pronto Marketingという会社からファウンダーの二人が来て、そのビジネスについて話してくれました。
Pronto Marketing はバンコクにあり、70人以上の従業員がいるWordPressを扱う会社です。面白いのはそのビジネスモデルで、
- 対象は歯医者さん、フィットネスクラブ、法律家、会計士などのスモールビジネスのサイト
- 小規模から中規模のウェブサイトを作る
- 現在は、全てのサイトをひとつの親サイトの子テーマとして作る
- お客さんは、アメリカ、カナダなどの英語圏
- 原則的に月額247米ドルの固定費のみ。イニシャルコストなし
- 現在1000社以上のクライアントがいる
というもので、具体的なサービスとしては
- ホスティング(AWS上に構築されたマルチサイト)
- デザイン
- コピーライティング
- SEO
- 解析とレポート
- メルマガ
- ソーシャルメディアでの振る舞いの管理
- 必要な修正をいくらでもやる
といった、およそスモールビジネスのウェブサイトに必要そうなことを全部提供する、というものです。
端的に言えば、デザインからバックエンド、解析やライティングまで全部をプロフェッショナルに行うことができるウェブ担当者(チーム)を月額2万五千円の給料で雇いませんか?という商売です。創業者のひとりであるDerek Brown氏の以下の言葉が面白いです。
スモールビジネスのオーナーにとって、やるべきことはウェブサイトの管理ではなく、彼らのビジネスそのものだ。ウェブサイトのことに頭を使ったりライティングをしたりといったことよりももっと必要なことは、多分千個くらいあるはずだよ。
ウェブ集客に関することはこちらでやっておくから、御社は安心してビジネスに集中してくださいね、ということですね。(蛇足ですが僕自身はどんな会社の人でも自分自身で何かをパブリッシングすることはいいことだと思っている派です)
英語ですが、彼らのセールスのための動画が分かりやすいです。
下の画像は、彼らが顧客に提供する業務の一覧です。
効率化、スケーラブル、プロダクト
先日、WordPressを使ってビジネスをするってどういうことかしら、どんなモデルが有るんだろうねという会話を、ハワイからバンコクにやってきているJon Brownさんという方と話していたのですが、その時に興味深いブログ記事を紹介してもらいました。→ “In Defense of Consulting Businesses – Bill Erickson“.
おもしろポイントを引用しますと、
At conferences and meetings with other freelancers, a common desire I hear is to shift more of their revenue from “trade-time-for-money” services to “mailbox-money / scalable” products.
カンファレンスやミートアップでフリーランサーと話していて共通して話題に上がるのが、収入モデルを「労働時間とお金の交換」から「一回仕事して継続課金/スケーラブル」なモデル(プロダクト)に移行したい、ということだ。
というところです。
その上で、労働の対価としての収入モデルからスケーラブルなモデルへの移行が、どのように成功したり、成功ばかりではなかったりしているのかについて、いくつかの事例を挙げながら議論をしています。制作の仕事を数年やっていると、会社/チームにしたりサービスにしたりなんらかの仕組みを作ったり、というのは日本でもよく聞く話です。面白いのは、労働対価モデルとプロダクトモデルを両極に置いた上で、下記のように書いているところです。
All businesses fall somewhere in the middle.
すべてのビジネスは、(この両極の)中間のどこかにおさまる
スケーラブルなモデルのお手本として、StudioPressというテーマ販売とサポートを合わせたモデルが例に引かれているのですが、そこでは「たしかにプロダクト自体は完璧にスケーラブルだ。一度作ったものが、メンテナンスは必要だが、大した労力はなくずっと売れ続けている。だが、サポートはどうか。売れれば売れるだけサポートが必要になって大変だ」ということで、スケーラブルといっても必ずしも、たった一回の作業だけで永遠にお金が入るわけではないということを示しています。
一方、「労働時間とお金の交換」モデルだって単純には捉えられないですよ、という話もしています。つまり、経験を積めば積むほど構築は速くなり、使いまわせるコードも増えて、品質が上がるために単価も上げられるので、効率をよくしていくことで単純な時間とお金の交換モデルから離れることができる、ということです。ちなみに、この記事の執筆者が言うには(僕自身もそうですが)、価格の上昇スピードよりも品質の向上スピードのほうが上がり方は速いとのこと(残念!)。
はい。話がズレてしまいましたが、つまり、すべてのビジネスは、労働対価モデルとプロダクトモデルのどこか中間地点に落ち着くであろうと、ということです。それが言いたかったのです。
Pronto Marketingの場合
ビジネスモデルについての説明が前半に行われて、後半では実際にどうやってビジネスを構築したのか、あるいは現在取り組んでいることについて話してくれました。僕の理解では、全ての要素を効率化して、再現可能性を上げて、スケーラブルにするということだと思います。たとえば、
- ベストを提供すると同時に、余計なカスタマイズはしない
- プラグイン、Bootstrap、_sなどの既存のよいものをどんどん取り入れる
- 価格は固定
- カスタマーサポートをツールやルールで最適化。かつ、顧客満足度が可視化されるようにする。
- 医療、フィットネス、法律など、特定の分野に集中してみる。ひとつの分野に詳しいと、同じ分野の別の国/地域にいる顧客の仕事をする際に、スピードが上がる
- 再利用可能なWordPressテーマを開発する(親テーマ)
- 正しくきれいなコードを書き、ちゃんとしたプラグインだけを使い、テストもすることでアップデートの確実性を上げる
といったことです。これらは、言われてみればあたりまえだけど(会社経営って、こういうことを含みますよね、きっと)、多くの場合徹底してやりきれていないこと、であると思います。
たとえば僕の場合、クライアントに「これできますか?」と聞かれると「はい、できます」と答えがちだったり(できないって言いたくない)、メールへのレスポンスが遅れたり、バラバラな業界のお客さんと仕事をしたりしています。
顧客に理由を添えてNoを言いつつシンプルさを保ち続け、問い合わせへの返答はチームがかりで即レスで、戦略的にターゲットを絞って効率的に知識を蓄えながら複数の企業にソリューションを提供するPronto Marketingに比べれば、かなり非効率で再利用可能性も低く、スケーラブルではないです。時間対価労働の極に寄っています。
すごいのは、上記のことを数年にわたり徹底的に実行したこと、実行するチームを作り、改善し続けていること、なのだと思いました。
効率化の進行とクオリティの向上
効率化=パッケージ化と捉えれば、ともすると、どんなお客さんに対しても同じソリューションを提供して似たようなものを量産する、ということかと思われるかもしれないですが、間違ってます。
何度も繰り返される作業が徹底的に効率化されるということは、その作業のスピードだけでなくアウトプットの品質も上がっており、かつ、デザインであったりコンテンツであったり戦略であったりといった、コピーできない価値(システム化・パッケージ化がしにくい部分)に使われる時間が増えるということです。
時間はたくさん費やしてくれるけど、品質は微妙というのを選ぶより百倍よいですよね、ということです。
もちろん、パッケージではあるので対応できる範囲が限定される面はあるものの、もしその範囲に収まるのであれば、こうしたプロダクト/サービスを利用するのはおおいに大アリであるし、同じようなモデルが日本でも成功する確率はとても高いと思います。
ウェブサイトの制作の楽しさがありながら、自社の開発する製品やサービスを販売している、というプロダクト極=スケーラブル極に寄っているモデルですね。優秀なタイ人や色んな国の人達を雇ってチームを作って改善して、という作業そのものが楽しそうすぎます。
会社の雰囲気が良すぎて嫉妬
昨年、タイへの引っ越しに備えた視察旅行時に、オフィスにお邪魔していたのですが、そこで見た会社の姿が楽しそうすぎて、入社したくなりました。
現在は別の場所に引っ越しているので、オフィスの様子も違っています。こちらのリクルートページで楽しそうな様子が映像も含めて見ることができます。
まとめと感想
自分の働き方について考えなおすいい機会になりました(ずっと考えてはいるんですけどね。刺激が大きかったです)。
会場提供やオーガナイズで動いてくれたみなさまもありがとうございました!以下は、回の様子でありますよ。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] 第二回は、Pronto Marketingという在バンコクのマルチサイトを利用したウェブサイトの制作・ホスティング・マーケティング会社が話をしてくれました。この会社のやっていること、話してくれたことはWordPressを利用したビジネスについて、とてもたくさんのヒントを与えてくれました。このイベントのレポート記事も以前書きました。 […]